薔薇と白鳥④ 6月8日
6/7のソワレに引き続き、2日連続で「薔薇と白鳥」を観劇してきました。
今回は1階席の6列目の真ん中あたりだったので、死角は全く無く、舞台全体がとても見やすい席でした。
7日は、最前列センターという座席に興奮し過ぎて普通の精神状態ではなかったので、今回みたいな席が、純粋にお芝居を味わうには丁度良い距離感かな、と思います。
光くんのマーロウに関しては、私の見た4公演の中では、今回の公演のマーロウが一番好きでした。
29日に初めて光くんのマーロウを見た時、マーロウは低めで野太い声が印象的だと思いました。
極端に言うと、光くんが、藤岡弘、さんのモノマネをしている時に出す声に似ていました。(そこまで低くはないけど、イメージは…)正直、地声の高い光くんには、出しづらい声だったと思います。
それが、6/7、6/8と公演に入って、1週間前と確実に違うと感じたのは、マーロウの声のトーンです。
特に6/8公演は、かなり光くんの地声のトーンに近づいてきたと思います。
マーロウの役作りの時「気性の荒い気難しいキャラ」として、低めの声が採用されたのかもしれませんが、今回のような声の高いマーロウでも全然良いと思いました。
特に1幕では、マーロウは、偽金製造機代を工面する為に、色々な人にお金を無心する場面があって、口が達者でお調子者っぽい発言を多々しています。
光くんがマーロウの声のトーンを変えた事で、そういった場面では、マーロウの「口が悪くて面倒くさいけど、どこか憎めない」感じがより強く伝わってきます。光くん自身が声を出しやすいからか、台詞にリズムが生まれ、マーロウの言葉がより軽妙に聞こえてくるんです。
そして、緊迫した話をしている場面では、光くんは、ちょっと声のトーンを落として、マーロウの言葉に重厚感を持たせようと意識している気がしました。
それにしても、声のトーンで、こんなにもお芝居って変わるもんなんですね!
最初に低めの声を出していたのは、光くんが地声のトーンでマーロウを演じると、愛嬌が出過ぎてしまって、シェイクスピアとのキャラの対比がぼやけちゃうと思われたのかなぁ?
でも、最終的にマーロウは、自分の命を犠牲にして、シェイクスピアとローズ座の人々と2000人の観客と演劇界の未来を救うスーパーヒーローですからね。
なんだかんだで、登場人物みんなから愛されていたと思うし、マーロウ自身もみんなを愛していたと思います。
そう考えると、声の高い今のマーロウの方が「毒舌で喧嘩っ早くて面倒くさいけど、でも意外とお人好しで愛嬌があって憎めない」感じが良く出ていて、光くんにしか演じられないマーロウになっているな、と思います。
いや~、公演に入る度に進化している光くんのお芝居が観れて、本当に幸せな事ですね。
毎公演毎公演、その時の100%で演じているからこそ、次の公演では更に成長しているし、進化しているんですよね。
こうやって変わっていって、1回として同じものはないから、舞台って何度見ても面白い!
もちろん1回しか観れなくても、その1回を十分に楽しめればそれでいいんですけどね!
さて、ここからは、前回の更新に引き続き、ストーリーに関しての感想を書いておこうと思います。
前回は、マーロウとネッドとジョーンの関係性を中心に書きましたが、今回は、まずヘンズロウとの関係を。
ローズ座の劇場主であるヘンズロウは一言で言うと拝金主義の経営者。1幕では、人気劇作家マーロウの戯曲のおかげで、劇場収入もそこそこ良さそうですか、基本的には、マーロウとは水と油で全く意見の噛み合わない人物です。
マーロウとヘンズロウは話せば大抵喧嘩になるし、話しても分かり合えないまま終わる。マーロウがどんなに熱く作品について語っても、全然理解してもらえません。
その日暮らしで自由に生きる詩人と、現実的な経営者という、価値観が根本的に違う2人ですからね。
でも、お金にがめついヘンズロウが、ジョーンの結婚後も、マーロウの為にローズ街にジョーンの部屋を借り続けるのを許してくれたのは、やっぱりどこかでマーロウの事を気にかけてくれていたからでしょう。
価値観は違うし、性格は合わないけど、決してマーロウを嫌っている訳ではないんですよね。
ヘンズロウを演じる佐藤B作さんは、そのお芝居で物語にユーモアをプラスしてくれていて、ヘンズロウの出るシーンでは、大抵劇場に笑いが巻き起こります。
そして、余談ですが、終演後のカーテンコールで、B作さんが光くんの背中をポンって叩いて、2人で笑いあっている姿を見ると、4年前の殺風景のカーテンコールで西岡徳馬さんも同じ様に光くんを労ってくれたなぁと思って胸が熱くなります!
続いて、見どころシーンがたくさんある、マーロウとフライザー。
マーロウは自信家で、誰に対しても基本的に強気ですが、唯一敵わないと思っているのがフライザーでしょう。フライザーに対しても強気な発言はするものの、結局は従うしかない。マーロウの面倒くさい性格に、なんだかんだで大抵の人は折れてくれますが、フライザーには通用しないんですよね。
フライザーにジョーンとの関係を聞かれ、最初は「お前にだけは話したくない」と強気に突っぱねるマーロウですが、最終的には「プライド傷付くなぁー」と言いながら語らざる得ないシーンや、上からの指示に忠実なフライザーに「ストイックだねー」と軽口を叩いて一蹴されるシーンも、頑張って虚勢をはってみるけど結局は敵わないマーロウがちょっと雑魚キャラっぽくて微笑ましいです。
とはいえ、居酒屋で居合わせた客と喧嘩騒ぎを起こしたマーロウを助けてくれたり、マーロウが諜報員のターゲットにならないように釘を刺してくれたりするので、冷徹だけど、フライザーもやっぱりマーロウを気にかけてくれていますよね。
最終的にマーロウはフライザーに殺されますが、そこに「カトリック」が関わっていなかったら、フライザーもマーロウを殺す事はなかったのだろうと思います。
フライザーの行動基準は「カトリックの弾圧」が全てなので、そこを邪魔する奴は、例え誰であろうと容赦はしない。
だから、カトリック教徒の企むバーリー卿暗殺計画を事前に阻止しようとするマーロウに対して、「(カトリック教徒を一網打尽にできる絶好の機会を邪魔するのなら)例えお前の命であろうと、何とも思わない」と事前に忠告したんでしょう。
マーロウも、この言葉で、今度ばかりは、本当に命はないと覚悟したはずです。
雨の中、マーロウが苦悩するシーンは、表情と動きだけで表現されますが、ここの光くんの表現力が本当に素晴らしいので、ぜひ注目して欲しいです!
そして素晴らしいと言えばやはり、マーロウとフライザーの劇中劇ですね!
マーロウがフライザーに殺される前に、マーロウが書いた戯曲「エドワード2世」の中で、エドワード2世が家臣に殺される場面を、マーロウ(役の光くん)とフライザー(役の武田さん)が演じるシーンがあるんですが、エドワード2世(光くん)が死の恐怖に怯える表情や台詞の言い回しがめちゃめちゃ上手くて、毎回息をするのも忘れるくらい ぐっと引き込まれてしまいます。
エドワード2世(光くん)は、お尻の穴に熱した鉄棒を突っ込まれて壮絶な殺され方をするので、その後 実際にマーロウがフライザーに殺されるシーンは、随分シンプルだなぁ?と最初は思ったのですが、死の恐怖に慄く人と、満足の中で死を遂げる人の対比を描きたかったのかもしれないですね。
最後フライザーに殺される時のマーロウは、「アルプスまで足を伸ばすつもりだったのになぁ、ダメか」なんて、ちょっと笑顔で言いながら、全てを受け入れてる感じなんです。
その表情からは、死への恐怖を乗り越え、自分の命より大切だと思うものを守り抜いた満足感が伝わってきます。
フライザーは、そんなマーロウを無言でひと思いに剣で突き刺して殺すんですが、ここのシルエットが本当に美しい!!(不謹慎だけど)
フライザーが剣を突き刺す角度、壁を背にマーロウが目を見開いて突き刺されている表情、今でも思い浮かべられるくらい、鮮明に脳裏に焼き付くラストシーンです。(4回も見ればそりゃそうか…)
もしもストーリーの中で、マーロウが同性愛者っていう描写を入れるなら、相手はフライザーが適任かなぁ…なんて思うくらい、なんかこの2人のシーンは絵になるんですよね。(※私は腐女子的な感性は全くないので、あくまで個人的な意見です)
そして、最後になりますが、この舞台のメイン、マーロウとシェイクスピアの関係です。
持ち前の人懐っこさと愛嬌で、気難しいマーロウの懐に上手く入り込むシェイクスピア。初対面でも物怖じする事なく、マーロウにぐいぐい行くシェイクスピアと、そんなシェイクスピアを恐らくちょっと可愛いと思ってしまっているマーロウ。
初対面のシェイクスピアに「盗めるものなら盗め」なんて言って大事な大事な台本を渡すあたり、マーロウって何だかんだでお人好しですよね。
でも、シェイクスピアに才能が無ければ、マーロウが書いた台本をいくら読んでも、その技巧を盗む事はできなかったと思うので、結果的に台本を読んだだけでコツを掴んだシェイクスピアは天才だし、マーロウはそれを見極める為に台本を渡したのかもしれないですね。
そして、シェイクスピアが書いた「ヘンリー6世」を読んで衝撃を受けるマーロウ。
祖国イングランドの為に、勝てる見込みが無いのに孤軍奮闘でフランス軍と闘うトールボットと、そんな父に加勢する息子。結局2人は命を落とすのですが、マーロウは、そんな2人の台詞のやりとりに胸を打たれたとジョーンに素直に語ります。
そして早くもシェイクスピアの劇作家としての才能を認め、「(シェイクスピアは)新人でも後輩でも弟子でもない」「ライバルだ」と自覚するのです。
(因みに「ヘンリー6世」は、最近の研究でマーロウとシェイクスピアの共著であることが証明されたので、作品への関わり方は別としても、史実に基づいた設定ですね。)
その後マーロウは、シェイクスピアに触発されたものの、無理矢理題材を決められて書かされた「パリの虐殺」は不発に終わり、2幕では、マーロウとシェイクスピアの立場は逆転してしまいます。
この3年で、落ちぶれたマーロウと、成功したシェイクスピア。
ローズ座のみんなは、シェイクスピアは有名になっても変わらないと言ったけど、マーロウだけは、シェイクスピアを変わったと言います。
自分が才能を認めたシェイクスピアが最近戯曲を書かなくなった事が悔しいのでしょう、敢えてシェイクスピアを挑発します。
「盗むものが無くなったから、書けなくなったんだ」「誰にも由来しない自分の中から湧き出るものが本当の言葉だ」
それに対し「3年も書けなかった人に言われたくない」と反発するシェイクスピア。
この、マーロウとシェイクスピアの2人の劇作家の本音のぶつけ合いは、見どころの一つですね。お互いに刺激し合う関係になっているんだなあ、と言うのが伝わってきます。
最後にマーロウが「手に負えない事に直面してないか?」とシェイクスピアを心配するシーンは、マーロウのシェイクスピアに対する友情が垣間見えて素敵です。
そして、クライマックスは、バーリー卿暗殺計画を実行しようとするシェイクスピアと、それを食い止めようと説得するマーロウのシーン。
カトリック教徒であるシェイクスピアが、昔、親族がどのような弾圧を受けて苦しんだかをマーロウに語りますが、この時親戚が惨殺された方法を聞いて、ああこの舞台の冒頭で洗礼を受けている赤ちゃんはシェイクスピアだったんだなぁと伏線が回収されます。
シェイクスピアに拳銃を突きつけられながらも、マーロウは必死で説得します。「例え暗殺計画が成功して、ウィルが逃げおおせても、劇場で人を殺したら詩人として終わりだ」「ヘンリー6世を楽しみに来ている2000人の観客。ウィルが創り上げた夢のような空間を、お前自身が地獄の阿鼻叫喚に変えるのか」
それでもまだ葛藤するシェイクスピア。日本人にはあまりピンとこない感覚ですが、それくらいに、宗教とは絶対的な価値観になるものなんですね。
ただ個人的に何度見ても腑に落ちないのは、シェイクスピアの最終的な動機が「ジョーンの命を守るため」だったことです。
確かにシェイクスピアはジョーンとそれなりに仲は良いと思いますけど、最終的な動機になるほど深い関係なんだろうか?と。
例えばシェイクスピアにジョーンに対する恋心があったとしたら、そこはもっと細かく描いて欲しいし、ジョーンはマーロウとの絆の方が強く描かれているし、ネッドの妻だし、ジョーンがネッドじゃなくて、シェイクスピアと結婚してくれていたらまだ納得できるけど…。
それでもシェイクスピアが唯一本音を話している相手は、マーロウとジョーンだけだから、まぁジョーンが動機になったということでしょうか…。
あとは、カトリック教徒から裏切り者だと思われているジョーンが標的にされるのが、ストーリーの流れとして自然なのでそうせざる得なかったのかな…。
と、少し話は逸れましたが、最終的に「ジョーンも客席にいるから、合図を送ってしまえば、どっちにしろジョーンの命は助からない。」「合図を送らないでくれたら、後は俺が何とかする。」そう言ってシェイクスピアを説得したマーロウ。
最後に「命ある限り、戯曲を書き続けろ」と約束させます。「お前には俺を超える才能がある」「明るい人柄は喜劇を産み、カトリック教徒である事を隠し続ける苦難は悲劇を産む」「お前が創り上げた戯曲は全て、お前が生きた証になる」…台詞はニュアンスですが、マーロウの熱い想いに胸を打たれます。
マーロウが命を懸けても守りたかったもの。それは自分が認めたシェイクスピアの才能と、演劇界の未来なんですよね。
ここのシーンでは、シェイクスピアが汗だくで泣きながら葛藤しているので、終演後のカーテンコールでも雄也は汗だくです。その余韻がまた良いですね!
マーロウがシェイクスピアを説得し終えて去っていったあと、バーリー卿が来た事を確認し、合図を送るか迷っているシェイクスピア…そこに突然、劇場の天井から沢山の金貨が降ってきます。この謎の騒動で、公演は急遽中止になり、バーリー卿暗殺計画は失敗に終わるのです。
1幕を観ていた時は、偽金製造機なんて、なんでそんな訳の分からないものをストーリーの発端にしたんだろうってちょっと謎に思っていたんですが、最後の最後でその伏線が回収される訳です。
1幕でジョーンが「偽金製造機なんて何に使うの?」と聞いた時、「そのうち思い付く」「台詞と一緒で、ここ(頭の中)に眠らせておくのさ」みたいなことを言っていたマーロウですが、ここできたかー!!という感じですね!!
いや~、結果的にマーロウ天晴れ!!マーロウって最高に良いやつ!!もうすっかりマーロウ担!!
実際のマーロウがどんな人だったかは謎だけど、こんなヒーローだったとしたら夢がありますね。ちゃんとしたお墓もないマーロウにちょっと想いを馳せたくなります。
そんなこんなで4回目の観劇を終えましたが、私の薔薇と白鳥は、残すところあと1回。
当日券チャレンジは今後も地道に続けていきたいと思いますが、光くん、雄也、キャストの皆様、スタッフの皆様、カンパニー全員で、あと19公演、最後まで怪我なくやり遂げて欲しいですね!